【完全ガイド】シネマティック動画とは?撮影から編集までの作り方をプロが徹底解説

「なんだかこの動画、映画みたいでカッコいいな…」
YouTubeやSNSで、思わず目を奪われるような美しい映像に出会ったことはありませんか?
日常の何気ない風景が、まるで映画のワンシーンのようにドラマチックに表現されている動画。それが「シネマティック動画」です。
個人のVlog(ビデオブログ)から、企業のブランディング映像、製品プロモーションまで、シネマティック動画は今や様々なシーンで活用され、視聴者の心を掴んでいます。
「でも、あんな映像ってプロのクリエイターじゃないと作れないんじゃ…?」
そう思っている方も多いかもしれません。しかし、実はシネマティック動画の制作にはいくつかの「法則」があり、そのポイントさえ押さえれば、初心者の方でもクオリティの高い映像を作ることが可能です。
この記事では、Webメディア「trendship」の編集部が、シネマティック動画の基本から、具体的な撮影・編集のテクニック、さらにはクオリティを一段と引き上げる応用技まで、5000字を超えるボリュームで徹底的に解説します。
この記事を最後まで読めば、あなたも「ただの記録映像」から一歩進んだ、「物語を語る映像」を作り始められるはずです。
シネマティック動画とは?その魅力と特徴を解説
映画のような世界観を表現する映像手法
シネマティック動画とは、その名の通り「シネマ(映画)」のような雰囲気や表現を取り入れた動画のことです。
単に美しい映像というだけでなく、ストーリー性や感情的な深みを感じさせ、視聴者をその世界観に引き込む力を持っています。
具体的には、以下のような特徴が挙げられます。
- 横長のスクリーンサイズ(アスペクト比)
- 独特の色彩表現(カラーグレーディング)
- スローモーションなどを活用した印象的な演出
- 被写体の背景をぼかした美しい映像
- 臨場感あふれるサウンドデザイン
これらの要素が組み合わさることで、日常の風景が非日常の特別なシーンへと昇華されるのです。
なぜ今、シネマティック動画が注目されるのか?
シネマティック動画が注目される背景には、情報の伝え方の変化があります。
テキストや写真だけでは伝えきれない雰囲気や感情、ブランドの世界観を、映像を通じて直感的に伝えることができるため、特にマーケティングの世界でその価値が高まっています。
- 企業のブランディング: 企業の理念や製品の持つ世界観を、感動的なストーリーと共に伝えることで、視聴者の共感を呼び起こし、ファンを育成します。
- 商品・サービスのプロモーション: 製品の機能的な説明だけでなく、それを使うことで得られる「体験」や「感動」をシネマティックに描き、購買意欲を高めます。
- 個人のVlogや作品制作: 旅行の思い出や日常の記録を、ただのVlogではなく一つの「作品」として表現することで、多くの視聴者を魅了し、自己表現の幅を広げます。
情報が溢れる現代において、人の心に深く残り、記憶されるコンテンツを作ることが求められています。シネマティック動画は、そのための最も強力な手法の一つと言えるでしょう。
シネマティック動画制作の全体像|3つのステップ
魅力的なシネマティック動画は、決して偶然生まれるものではありません。しっかりとした計画に基づき、3つのステップを踏むことで完成します。
- ステップ1:計画編(準備)
- ステップ2:撮影編
- ステップ3:編集編
いきなりカメラを回し始めるのではなく、まずは完成形をイメージし、入念な準備をすることが、クオリティを左右する最も重要な鍵となります。
それぞれのステップについて、詳しく見ていきましょう。
【ステップ1:計画編】クオリティを左右する最も重要な準備
撮影や編集のテクニックに目が行きがちですが、プロの現場ではこの「計画編」に最も多くの時間を費やします。ここでの準備が、後の工程をスムーズにし、作品の質を決定づけると言っても過言ではありません。
コンセプトとストーリーを明確にする
まず最初に決めるべきは、「誰に、何を伝え、どんな気持ちになってほしいか」という動画の核となるコンセプトです。
- 自分自身の思い出用の動画なのか?
- 多くの人に見てもらい、感動を共有したい動画なのか?
- 企業の製品を紹介し、購入を促したい動画なのか?
目的によって、撮影すべきシーンや構成は大きく変わります。
コンセプトが決まったら、簡単なストーリーボード(絵コンテ)を作成してみましょう。物語の起承転結を意識し、「どのような順番で、どのような映像を見せるか」を視覚的に計画することで、撮影時に迷うことがなくなり、伝えたいメッセージがブレなくなります。
ロケーションハンティングと撮影許可
ストーリーが決まったら、その世界観に合った撮影場所を探します。これをロケーションハンティング(ロケハン)と呼びます。
Googleマップのストリートビューや、他のクリエイターがSNSに投稿した写真・動画などを参考に、候補地をいくつかリストアップしましょう。可能であれば、事前に現地を訪れ、光の入り方や人の多さなどを確認しておくのが理想です。
また、場所によっては撮影に許可が必要な場合があります。公共の施設や私有地などで撮影する場合は、必ず管理者に事前に確認し、必要な手続きを行いましょう。無用なトラブルを避けるためにも、この確認は非常に重要です。
撮影機材の準備と設定確認
撮影当日に慌てないよう、機材の準備と確認は前日までに行いましょう。
- カメラとレンズ: 一眼レフカメラやミラーレス一眼が理想ですが、最近のスマートフォンでも高品質な撮影が可能です。レンズは、背景をぼかしやすい単焦点レンズや、様々な画角で撮れるズームレンズなど、表現したい内容に合わせて選びましょう。
- ジンバル・三脚: シネマティック動画の基本は「ブレのない滑らかな映像」です。手ブレを抑えるために、ジンバル(電子式スタビライザー)や三脚は必須アイテムと言えます。
- バッテリーとメモリーカード: 撮影中にバッテリー切れや容量不足になるのは最も避けたい事態です。予備のバッテリーを複数個用意し、メモリーカードも十分な容量があるか確認しておきましょう。特に4Kなど高画質で撮影する場合は、容量の消費が激しいので注意が必要です。
- レンズの清掃: 意外と見落としがちなのがレンズの汚れです。指紋やホコリがついていると映像が白っぽく曇ってしまい、せっかくの映像が台無しになります。撮影前には必ずレンズクリーナーで綺麗に拭いておきましょう。
【ステップ2:撮影編】映像に命を吹き込むプロの撮影テクニック
入念な準備が整ったら、いよいよ撮影です。ここでは、あなたの映像を「シネマティック」たらしめるための、具体的な撮影テクニックを解説します。
フレームレートは「24fps」が基本
フレームレート(fps)とは、1秒間の動画が何枚の静止画で構成されているかを示す単位です。
日本のテレビ放送は一般的に30fpsですが、映画は伝統的に「24fps」で撮影されています。この24fpsというフレームレートが、映画特有の適度な残像感(モーションブラー)を生み出し、非日常的な雰囲気を醸し出します。
シネマティックな質感を求めるなら、カメラの設定でフレームレートを24fps(または23.976fps)に合わせて撮影しましょう。これだけで、映像の印象がガラリと変わるはずです。
構図とアングルで印象をコントロールする
どこに被写体を配置するか(構図)、どの高さや角度から撮るか(アングル)によって、視聴者が受ける印象は大きく変わります。闇雲に撮るのではなく、意図を持って構図とアングルを選びましょう。
- 三分割法: 画面を縦横に三分割し、その線が交差する点に被写体を配置する最も基本的な構図です。バランスが良く、安定感のある映像になります。
- 日の丸構図: 被写体を画面のど真ん中に配置する構図。シンプルながら、被写体の存在感や力強さをストレートに伝えたい時に有効です。
- ローアングル: 下から見上げるように撮影するアングル。被写体を雄大に見せたり、迫力を出したりする効果があります。
- ハイアングル: 上から見下ろすように撮影するアングル。被写体の弱さや孤独感を表現したり、景色の広がりを見せたりするのに使われます。
構図はあくまで「伝えたいことをより効果的に表現するためのツール」です。まずは自分が何を表現したいかを考え、それに最適な構図を当てはめていくという順番を意識しましょう。
カメラワークで躍動感と感情を表現する
カメラの動き(カメラワーク)は、映像に躍動感を与え、視聴者の感情を揺さぶる重要な要素です。ただし、初心者のうちはカメラを動かしすぎると、何を見せたいのか分からない雑な映像になりがちです。
まずは「固定ショット(フィックス)」を基本にしましょう。カメラを三脚などで固定し、被写体の動きや風景そのものを見せる撮影方法です。
固定ショットに慣れてきたら、以下のようなカメラワークにも挑戦してみましょう。
- スライダーショット: カメラを水平にゆっくりとスライドさせる動き。静かな風景に動きを与え、高級感を演出できます。
- ドリーイン/ドリーアウト: 被写体に向かって前進(ドリーイン)したり、後退(ドリーアウト)したりする動き。物語の始まりや終わり、感情の高まりなどを表現します。
- パン/ティルト: カメラを固定したまま、水平(パン)または垂直(ティルト)に振る動き。広大な景色を見せたい時などに有効です。
重要なのは、「なぜカメラを動かすのか」という意図を常に持つことです。意味のない動きは、視聴者の集中を削いでしまいます。
「光」を制する者は映像を制す
写真は「光の芸術」と言われますが、それは動画においても同じです。光の向きや質を意識することで、映像のクオリティは劇的に向上します。
- 順光: 被写体の正面から当たる光。全体が明るくはっきりと見えますが、のっぺりとした平坦な印象になりがちです。
- 逆光: 被写体の後ろから当たる光。被写体の輪郭を際立たせ、髪の毛などをキラキラと輝かせる効果があります。柔らかく、幻想的な雰囲気を出したい時に最適です。
- サイド光: 被写体の横から当たる光。陰影がはっきりとつき、被写体の立体感や質感を強調します。クールでカッコいい印象を与えたい時に使われます。
特に、日の出後と日没前の数十分間は「ゴールデンアワー」と呼ばれ、世界が金色に輝く最も美しい光の時間帯です。この時間を狙って撮影するだけで、どんな風景もドラマチックに映ります。
初心者が陥りがちな撮影の失敗例
シネマティック動画を目指す初心者が、よくやってしまう失敗がいくつかあります。これらを意識するだけでも、映像の質は大きく改善されます。
- 手ブレがひどい: 意図しない手ブレは視聴者に不快感を与えます。必ず三脚やジンバルを使いましょう。
- ロングショットばかり: 遠景ばかり撮影していると、単調で何を見せたいのか分からない映像になります。その場の雰囲気を伝える「ロングショット」、何をしているかを見せる「ミドルショット」、感情や質感を伝える「クローズアップショット」をバランス良く組み合わせましょう。
- カメラを動かしすぎる/速すぎる: 前述の通り、意味のないカメラワークは避けましょう。動かす場合は、ゆっくりと滑らかに動かすのが基本です。
【ステップ3:編集編】撮影素材を作品へと昇華させる魔法
素晴らしい素材が撮れたら、最後の仕上げである編集作業に入ります。ここでは、撮影した映像の断片をつなぎ合わせ、一つの物語として完成させていきます。
アスペクト比を「2.35:1」で映画のスクリーンサイズに
まず最初に行いたいのが、画面の縦横比(アスペクト比)の変更です。
テレビやYouTubeの標準的なアスペクト比は「16:9」ですが、映画でよく使われるのは、より横長の「2.35:1(シネマスコープサイズ)」です。
編集ソフトの設定でプロジェクトのアスペクト比を2.35:1に変更するか、16:9の映像の上下に黒帯(レターボックス)を追加するだけで、一気に映画らしい雰囲気になります。これは最も簡単で効果的なテクニックの一つです。
ストーリーを紡ぐカット編集の技術
カット編集は、不要な部分を削り、見せたいシーンをつなぎ合わせていく、動画編集の心臓部です。
計画編で作成したストーリーボードに沿って、まずは大まかに映像を並べていきましょう。この時、視聴者を飽きさせないために「変化」を意識することが重要です。
- 場所の変化: 自宅→移動中の車内→目的地といったように、場所が変わることで物語が進んでいる感覚を生み出します。
- 時間の変化: 朝の風景から夜景へ、といった時間の流れを見せることで、ストーリーに深みが出ます。
- ショットの組み合わせ: ロングショット→ミドルショット→クローズアップショットといった流れでつなぐと、視聴者は状況を理解しやすく、物語に没入しやすくなります。
「このカットは何を伝えるために必要なのか?」を常に自問自答しながら、意味のあるつながりを作っていきましょう。
映像の世界観を決定づける「カラーグレーディング」
カラーグレーディングは、映像の色味を調整し、作品全体の世界観を統一する工程です。シネマティック動画の「雰囲気」を決定づける、非常に重要な作業と言えます。
- カラーコレクション: まず、それぞれのカットの色味や明るさを、肉眼で見た状態に近い「正しい色」に補正します。
- カラーグレーディング: 次に、作品のテーマに合わせて全体の色調を演出していきます。例えば、ホラー映画なら青や緑がかった不気味な色調に、感動的な物語ならオレンジがかった温かい色調にする、といった具合です。
最近の編集ソフトには、映画のような色味をワンクリックで再現できる「LUT(ルックアップテーブル)」というプリセット機能が搭載されているものも多く、初心者でも手軽に本格的なカラーグレーディングに挑戦できます。
感情を揺さぶる音楽(BGM)とサウンドデザイン(効果音)
映像における「音」の力は絶大です。同じ映像でも、流れる音楽によって視聴者が受ける印象は180度変わります。
- 音楽(BGM): 動画のテーマや伝えたい感情に合った音楽を選びましょう。楽しさを伝えたいならアップテンポな曲、切なさを伝えたいならスローなピアノ曲など、音楽サイトで自分のイメージに合うものを探します。
- サウンドデザイン(効果音): 撮影時に録音された音は一度消し、後から必要な音を足していくのがプロの手法です。風の音、鳥のさえずり、足音、キーボードを打つ音など、環境音や効果音(SE)を加えることで、映像の臨場感が格段にアップし、視聴者はまるでその場にいるかのような没入感を体験できます。
テロップやトランジションは控えめに
シネマティック動画では、映像そのものの力でストーリーを語るのが基本です。
派手なテロップや、多すぎる画面切り替え効果(トランジション)は、かえって映像の世界観を壊してしまうことがあります。テロップは必要最小限に、トランジションもシンプルな「カット」や「クロスディゾルブ(映像が滑らかに重なりながら切り替わる効果)」を中心に使い、映像美を損なわないように心がけましょう。
シネマティック動画のクオリティをさらに高める応用テクニック
基本のステップを押さえた上で、さらに映像のクオリティを高めたい方向けの応用テクニックをいくつかご紹介します。
スローモーションを効果的に使う
印象的なシーンや、感情が動く瞬間をスローモーションで表現することで、視聴者の視線を引きつけ、その瞬間の重要性を強調することができます。
スローモーションを使うには、撮影時に60fpsや120fpsといった高いフレームレートで撮影しておく必要があります。ここぞという場面で効果的に使うことで、映像に緩急が生まれ、よりドラマチックな演出が可能になります。
B-roll(補足映像)を充実させる
B-rollとは、メインの映像(A-roll)を補足するための映像のことです。例えば、インタビュー映像がA-rollなら、その人が話している内容に関連する風景や手元のアップなどがB-rollにあたります。
このB-rollを豊富に撮影しておき、編集で効果的に挿入することで、映像が単調になるのを防ぎ、ストーリーに深みと説得力を持たせることができます。
レンズフレアや光のエフェクトを活用する
レンズフレア(太陽などの強い光がレンズ内に入った時に発生する光の筋や輪)を意図的に発生させたり、編集で光のパーティクル(キラキラした粒子)などを加えたりすることで、映像に幻想的で美しいアクセントを加えることができます。
やりすぎは禁物ですが、効果的に使うことで映像の印象を大きく変えることができます。
まとめ
今回は、映画のような世界観を表現する「シネマティック動画」について、その概要から具体的な作り方のステップまでを詳しく解説しました。
最後に、重要なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- シネマティック動画は、計画・撮影・編集の3ステップで作られる。
- 計画編では、コンセプトとストーリーを明確にし、入念な準備をすることが最も重要。
- 撮影編では、「24fps」「構図とアングル」「カメラワーク」「光」を意識する。
- 編集編では、「アスペクト比」「カラーグレーディング」「サウンドデザイン」で世界観を構築する。
シネマティック動画は、決して一部のプロだけのものではありません。今回ご紹介した一つ一つのテクニックを丁寧に実践すれば、あなたの映像は必ず「作品」へと進化します。
難しく考えすぎず、まずはあなたのスマートフォンを片手に、身近な風景をシネマティックに切り取ることから始めてみてはいかがでしょうか。
この記事が、あなたの映像制作の新たな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。あなたの手で、世界に一つだけの物語を紡ぎ出してください。