新宿のビル街に突如現れた巨大な猫、製品の内部構造が透けて見えるプロモーションビデオ、まるでその場にいるかのような臨場感あふれるゲームのデモシーン。
近年、こうした「3D動画」を目にする機会が急速に増えました。
Webマーケターや企業のマーケティング担当者、そして映像クリエイターの皆さんの中にも、「なんとなくスゴイのは分かるけど、詳しくは知らない」「自社のマーケティングにどう活かせるの?」と感じている方が多いのではないでしょうか。
また、「3DってVRや360度動画と何が違うの?」といった素朴な疑問をお持ちかもしれません。
3D動画、特に3DCG(3次元コンピュータグラフィックス)は、単なる派手な映像表現ではなく、2Dや実写映像では伝えきれない情報を可視化し、視聴者に強いインパクトを与える強力なマーケティングツールです。
この記事では、「trendship」の編集部が、3D動画の基本的な知識から、マーケティングにおける具体的なメリット、業界別の活用事例、さらには制作のプロセスや費用の考え方まで、初心者にも分かりやすく徹底的に解説します。
この記事を読み終える頃には、3D動画をあなたの「武器」として活用するための、確かなヒントが得られるはずです。
そもそも「3D動画」とは?
「3D動画」と聞くと、専用のメガネをかけて映画館で観る立体映像を思い浮かべる方も多いでしょう。まずは、その定義と、混同しやすい関連技術との違いを整理します。
3D動画の2つのタイプ
一口に3D動画と言っても、大きく分けて2つの種類が存在します。
- 3DCG(3次元コンピュータグラフィックス) これは、コンピュータソフトウェアを使い、仮想の3次元空間に物体やキャラクター、背景などをゼロから作り出し、それに動きや光、質感を設定して生成される動画です。本記事で主に解説する、マーケティング活用が進む「3D動画」はこちらを指します。現実には撮影不可能な映像を自由に作り出せるのが最大の特徴です。
- 3D実写(ステレオスコピック) これは、人間の両目の視差(左右の目で見える映像の違い)を利用した技術です。専用の3Dカメラ(またはカメラ2台)を使って撮影し、左右の目それぞれに向けた異なる映像を同時に映し出します。映画『アバター』のように、視聴者が3Dメガネをかけることで、映像が立体的に飛び出して見えるタイプです。
混同しやすい「VR動画」「360度動画」との違い
3D動画としばしば混同されるのが「VR動画」と「360度動画」です。これらは視聴体験が全く異なります。
- VR(仮想現実)動画 視聴者が専用のVRゴーグルやヘッドセットを装着することで、まるで映像の世界に入り込んだかのような「没入体験」ができる技術です。視聴者は顔の向きや立ち位置を変えることで、360度自由に見渡したり、仮想空間内を移動したりできます。3D動画が「特定の視点から立体的に見る」のに対し、VRは「世界(空間)そのものに入り込む」という違いがあります。
- 360度動画 視聴者を中心点として、全方位(360度)を同時に撮影した動画です。PCやスマートフォンの画面をドラッグしたり、デバイスを傾けたりすることで、視点を自由に変えられます。これは3DCGのような「奥行き」のある立体映像ではなく、あくまで「2D映像を全球に貼り付けた」ものです。視聴者はその場から移動はできず、周囲を見渡すことしかできません。
まとめると、3D動画(3DCG)は「奥行きのある映像を、制作者の意図したカメラワークで見る」ものと言えるでしょう。
なぜ今3DCG動画が注目されるのか?マーケティングにおけるメリット
では、なぜ今、多くの企業が実写や2Dアニメーションではなく、あえて3DCG動画を選ぶのでしょうか。そこには、マーケティング戦略上、非常に強力なメリットが存在します。
メリット1:実写では不可能な「非現実」をリアルに可視化
3DCGの最大の強みは、現実世界では撮影が不可能なものを、あたかも実在するかのようにリアルに描き出せる点です。
- 目に見えないもの(例:人体の内部、ウイルスの動き、電波の流れ)
- 現実には存在しないもの(例:空想のキャラクター、未来の都市)
- 撮影が困難・危険なもの(例:宇宙空間、深海、大規模な災害シミュレーション)
これらを説得力のある映像として見せられるため、医療・医薬品の効果説明や、製造業における技術紹介、ゲームの世界観PRなどに最適です。
メリット2:複雑な情報や構造を直感的に伝える
マーケティング担当者にとって、頭を悩ませるのが「複雑な商品やサービスの仕組みを、どうやって短時間で分かりやすく伝えるか」という問題です。
3DCG動画は、この課題に対する完璧な答えの一つです。
- 製品の内部構造を、外側を透過させながら見せる
- 機械が動作する原理を、部品を分解・組立てしながら解説する
- 難しい工法のプロセスを、時系列で分かりやすくシミュレーションする
写真やテキスト、2Dの図解では伝えきれない「構造」や「流れ」を、視聴者は直感的に理解することができます。
メリット3:視聴者に強いインパクトと記憶を残す
高品質な3DCG動画は、その映像美とダイナミックな表現力で、視聴者の目を惹きつけ、強い印象を残します。
例えば、企業のロゴを3DCGで立体的に動かす「ロゴアニメーション」は、ブランドの先進性や信頼感を演出します。また、クロス新宿ビジョンの「新宿東口の猫」のような裸眼3D広告は、そのインパクトからSNSで爆発的に拡散され、大きな話題となりました。
視聴者の記憶に残りやすいため、ブランディングや認知度向上に大きく貢献します。
メリット4:制作・運用の柔軟性とコスト効率
「3DCGは高い」というイメージがあるかもしれませんが、中長期的に見ると、実写映像よりもコスト効率や運用柔軟性に優れる側面があります。
- 修正・変更が容易 実写の場合、撮影後に「角度を変えたい」「色を変えたい」となれば、再撮影が必要で莫大なコストがかかります。3DCGなら、データを修正するだけで対応可能です。
- 撮影コストの削減 スタジオやロケ地の手配、演者やスタッフのスケジュール調整、機材の運搬といった、実写撮影特有のコストや手間が一切かかりません。
- 制作の並行進行 新製品の発売前でも、CAD(設計)データさえあれば、実物が完成する前にプロモーション動画の制作を開始できます。これにより、スピーディーな市場投入が可能になります。
- アセット(資産)の多重活用 一度作成した3Dモデルデータは、動画だけでなく、Webサイトの画像、紙のカタログ、営業資料など、さまざまな媒体に転用でき、トータルコストを抑えられます。
3D動画の具体的な活用シーンと事例
3DCG動画のメリットが、実際のビジネスシーンでどのように活かされているのか、業界別に具体的な活用事例を見ていきましょう。
【製造業・工業】製品の内部構造や動作原理をPR
精密機械や工業製品は、その価値が「内部の仕組み」にあることが多いです。3DCGは、その見えない価値を可視化するのに使われます。
- 活用例:工作機械メーカーが、機械内部で刃物がどのように動いて金属を加工しているかを3DCGでシミュレーション。顧客(工場担当者)に、その精度や効率を直感的にアピールします。(DMG森精機などの事例)
- 活用例:建設会社が、新しい耐震工法や狭い土地での施工プロセスを3DCGで解説。施主やデベロッパーに、安全性と技術力を伝えます。(ランデス「ロードプラス」工法などの事例)
【医療・医薬品】目に見えない人体の仕組みや効果を解説
医療分野は、3DCGの「不可視の可視化」という特性が最も活きる領域の一つです。
- 活用例:製薬会社が、新薬の成分が体内の特定の細胞にどう作用し、症状が改善していくかのメカニズムを3DCGで表現。医師や患者への説明資料として活用します。(富士フイルムの医療技術CMなどの事例)
- 活用例:医療機器メーカーが、手術シミュレーションシステムや、サポーターがどのように体幹筋を支えるかを3DCGでデモンストレーション。使用方法や効果を分かりやすく伝えます。(Poji体幹筋サポーターなどの事例)
【不動産・建築】完成イメージの共有とウォークスルー
まだ存在しない「未来」を見せることも3DCGの得意分野です。
- 活用例:不動産デベロッパーが、建設前のマンションの外観や内装、共有スペースを3DCGで再現。「3Dウォークスルー動画」として、顧客にバーチャル内覧体験を提供します。
- 活用例:建築事務所が、設計図(平面)だけでは伝わらない空間の広がりや光の入り方を3DCGパース動画で作成し、クライアントへのプレゼンテーションに活用します。
【広告・エンタメ】世界観の表現と強い認知獲得
最も多くの人が目にするのが、この分野での活用でしょう。
- 活用例:ゲーム会社が、新作ゲームのプロモーションとして、ゲーム内のキャラクターや世界観を高品質な3DCGムービーで表現。ユーザーの期待感を高めます。(「FINAL FANTASY VII REMAKE」などの事例)
- 活用例:屋外広告として、デジタルサイネージ(大型ビジョン)専用の3D動画を放映。街ゆく人の足を止め、SNSでの拡散を狙います。(クロス新宿ビジョンの事例)
3DCG動画はどう作られる?制作プロセスと費用の考え方
これほど強力な3DCG動画ですが、どのように作られているのでしょうか。ここでは、基本的な制作プロセスと、マーケターとして知っておくべきコスト感覚について解説します。
3DCG動画制作の7ステップ
3DCG制作は、多くの専門的な工程を経て完成します。
- 企画・構想 最も重要な工程です。動画の目的、ターゲット、伝えたいメッセージを明確にし、絵コンテやシナリオを作成します。
- モデリング 3DCGソフトを使い、キャラクターや商品、背景などの「形」を粘土細工のように作っていく工程です。
- テクスチャリング・マテリアル設定 モデリングした物体の表面に「質感」や「色」を設定します。金属の光沢、布の柔らかさ、肌の透明感などをここで表現します。
- リギング・スキニング キャラクターなどを動かすための「骨(ボーン)」をモデル内部に設定し(リギング)、その骨の動きに合わせて表面が自然に変形するように関連付ける(スキニング)工程です。
- アニメーション 設定した骨や物体を、時間軸に沿って動かしていきます。歩く、走る、製品が組み上がるといった動きをつけます。
- ライティング・カメラ設定 仮想空間内に照明(ライト)を配置し、光と影を調整します。また、どの角度から撮影するか(カメラワーク)を決定します。
- レンダリング ここまでの全データをコンピュータに計算させ、最終的な1枚1枚の「映像」として書き出す工程です。非常に時間がかかる作業で、高性能なPCが必須です。
制作のポイントと注意点
3DCG動画には特有の難しさもあります。
- 専門ソフトとハイスペックPC 制作には「Blender」(無料だが高機能)や「Maya」「Cinema 4D」(有料)といった専門ソフトと、レンダリングに耐えうる高性能なPCが必要です。
- 「不気味の谷」への配慮 特に人物をリアルに作ろうとすると、ある一定のラインを超えた瞬間に、人間らしい微妙な表情のズレなどが「不気味さ」や「違和感」として感じられることがあります(アンキャニーバレー現象)。これを避けるための高度な技術とセンスが求められます。
気になる費用相場と外注のメリット
「で、結局いくらかかるの?」という点が最も気になるところでしょう。
- 費用相場 3DCG動画の制作費用は、そのクオリティや尺によって天と地ほどの差があります。あくまで目安ですが、一般的な2DCGアニメーションや実写動画が数十万円から100万円程度から制作可能なのに対し、高品質な3DCG動画は300万円以上かかるケースも珍しくありません。
- なぜ高いのか? 理由は、上記の通り「制作工程が複雑」であり、「高度な専門知識と技術を持ったクリエイター」が必要で、さらに「高価なソフトウェアや機材」が求められるためです。
- 外注(制作会社への依頼)のメリット こうした背景から、3DCG動画制作を内製化するのは非常にハードルが高いです。 専門の動画制作会社に外注することで、自社でクリエイターを採用・育成したり、高額な機材を揃えたりするコストと時間を節約できます。 クオリティの高い動画をスピーディに制作できるため、結果としてコストパフォーマンスが高くなることが多いです。
- 外注先の選び方 制作会社を選ぶ際は、「コミュニケーションが円滑か」という点に加え、「自社が依頼したいジャンル(例:商品紹介、医療系)の3DCG動画の制作実績が豊富か」を必ずポートフォリオで確認しましょう。
まとめ
3D動画、特に3DCG動画は、もはや映画やゲームだけのものではありません。
実写では見せられないものの「可視化」、複雑な情報の「直感的な伝達」、そして視聴者の記憶に残る「インパクト」を提供できる、強力なマーケティングツールです。
一見コストがかかるように見えても、実写の再撮影コストの削減や、CADデータからの先行制作、アセットの多重活用など、運用面でのメリットも多く含んでいます。
大切なのは、「2Dか3Dか」で悩むことではなく、「自社の商品やサービスの何を、誰に、どう伝えたいか」という目的に立ち返り、その表現手法として3D動画が最適かどうかを見極めることです。
この記事を参考に、あなたのビジネスを加速させる次の一手として、3D動画の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
タグ【 動画マーケティング, 動画・映像制作, 動画制作ノウハウ, 商品・サービス紹介動画】